僕はぼくらのファミ通チャンネルを退会する

ファミ通DS+Wiiという雑誌を知っているだろうか?
かつてエンターブレイン(現・Gzブレイン)から出ていたゲーム雑誌の一つだ。週刊ファミ通と違い月刊誌でタイトルの通りDSとWii、つまり任天堂ハードのみを扱っていた、ゲーム誌には珍しい低年齢層向けのものだった。
過去形なのは現在休刊になっているからだ。2016年1月21日発売の三月号で200号を達成し、次号発売は未定となった。

僕は当時高校生で専門学校を希望する3年生だった。僕はそれまで月の小遣いの全てであった1000円を毎月ファミ通DS+Wii(以下、ファミディー)に使う一読者であったが受験生ということがあり、その年1年は購入を控えていた。秋頃には進路が決まっていたが、少し前の夏に精神を病んでしまう出来事があり、年末まで引きずっていた僕はゲーム雑誌どころでは無くなっていた。
そして年が明け、しばらくたったある日何気なくTwitterを開くとそこにはフォローしていたファミディーの投稿常連の読者さんたちが一斉に困惑していた。

ファミディーの休刊が決まっていたのである。

一瞬デマか悪ふざけかと思った。しかし調べれば調べるほどその情報は事実になっていく。

呆然とした。後悔した。
こんな事なら買えばよかった。読まなくとも買って積んでおけばよかった。
(ちなみに定期購読は年間払いなので月の小遣いで購入していた自分では手が出なかった。)

なぜ情報誌を積んでおけば…なんて思うかというと、僕はファミディーの編集者さんが好きだったのだ。
もちろんゲームの情報が入るのがありがたかった。アナログ寄りの人間なのでネットでみるより動画で見るよりまず紙媒体を通して得る情報が好きだった。
でも、それよりもっとファミディーを読む理由が僕にはあった。

それが編集者、坂本ウの存在だった。

ファミディーに限らずファミ通では編集者それぞれにペンネームがあり、イベントで活躍したり誌面で活躍したりしていた。ファミディーでも編集者が対抗して企画を考え、読者の投票で一位を決めていたり、固定のコーナーでも熱く愛を語っていた。
入れ替わりもある編集部内で1人、他の方とは違う何かを感じたのがその坂本氏だった。彼は普段あまり表に出てこず、せいぜい固定コーナーの一つであるドラクエの情報を載せるページに半キャラクター化した彼がちょこんといるくらいだった。

しかし彼の作るページは僕にとって輝いていた。
紹介するゲームの面白さを絶妙に伝え、その文章の端々からはゲームに対する愛が見えていた。
たまに載る編集者たちの話の中でもゲーム愛、それも昔からのゲーム愛が伝わってきた。

僕が名作RPGであるメタルマックスと出会えたのも坂本氏のメタルマックス2リローデッドの紹介記事がきっかけだった。

その他にも坂本氏の記事の影響で扉を開いたゲームは多い。
そしていつしか坂本氏の記事や坂本氏を目当てに僕はファミディーを購入するようになっていた。彼の担当したムック本も購入した。要するにファンになっていたのだ。

それが、休刊。

どうしていいのかわからなかった。
めぐりめぐって坂本氏の給料になると信じて購読していた為、余計に後悔した。
もちろん、自分一人が読み続けていたからといってファミディーが休刊を免れていたかはわからない。
だがとても、とても悔しかった。
そしてもう彼には会えないのだと思った。
同じ編集部の雑誌はいくつかあったが、こちらはファミディーより低年齢層の未就学児から低学年向けであったし、さなぴーといった表に大々的に出てくる編集者以外はひっそりとしてしまっていたからだ。

そんな中で一つの希望があった。
ファミディー編集部の運営するYouTubeチャンネル、ぼくらのファミ通チャンネルだ。
編集長や人気の編集者がゲーム実況をしており、そこで坂本氏を待つしかなかった。
そして2016年6月、それはやってきた。

ショベルナイトの発売前実況だった。

狂喜乱舞して何回も見た。何回も何回も見た。楽しかった。そしてショベルナイトに興味を持った。
自分にとっての憧れが、声を発して紹介しているいまどき珍しいドットのゲーム、それがショベルナイトだった。
閑話休題、僕はその時とても嬉しかった。その反面、ある思いが僕の中で芽生えた。

この人の書いた文が読みたい。

けして動画がダメだったわけではない。むしろ僕の主観だがとても良かった。しかし文章が読みたくなったのである。
わがままは言えないのでそれなりに坂本氏の出てくる動画をYouTubeで楽しんでいた。
するとまた編集部に動きがあった。
2017年、ニコニコチャンネルの開設である。
当初僕は面白いとおもったがYouTubeとあまり変わらないテンションで動画を見ていた。
そして4月には有料会員のシステムがスタートした。
その有料会員限定のコンテンツに「編集者つれづれ日記」というものがあった。
不定期に編集部員が交代にブロマガで好きなテーマで書く…というものだった。

翌月だっただろうか、当然坂本氏の順番が回ってきた。

一も二もなく課金した。

課金という言葉が相応しくないかもしれないが、個人的にこれがしっくりくるので許して欲しい。
彼の文章目当てに月頭の支払いが賢いとは分かっていたのに月半ばで入会したのだ。

そのことに関してはほんとうによかったと思っている。

やはり坂本氏の書く文はとても面白く、ゲーム好きな彼のレトロゲームの収集事情などが分かって嬉しかった。

その後ニコニコチャンネルにて編集長を中心とした生放送を行う中で編集部員が担当する回やみんなでアナログゲームをする回など少しずつ坂本氏を見ることができるようになった。

嬉しかった。
楽しかった。



しかし、2018年3月現在。
つれづれ日記の更新は止まり、生放送にも坂本氏は顔を出さない。もちろん表に出てくるタイプの人ではなかったからそれは構わない。だが実況に出てくることも、レトロゲームについて語った文を読むこともなくなった。
twitterを確認すればたまにゲーム事情を呟いている。

退会を決意した。…数ヶ月前に。

ニコニコチャンネルへの課金も、その人へのなにかになればと思っていた。学生で金もあまりなかったがそれでも構わなかった。好きでやってたのだから。
でも、今はもうそれによって得られる欲しい情報は無い。ほかの編集部員の方も大好きだが、僕は坂本氏の文を求めて入会したのだ。
それが無い今、チャンネル会員で居続ける意味は無い。

とは言うものの、まだ踏ん切りが付かないでいる。
好きなものへの執着、会員でなくなることへの謎の不安感などがいつも退会の手を止める。


今月もまた、悩んで悩んで退会出来ないのだろうか。






誰かに聞いて欲しかったのか、言い訳がしたかったのか、おそらく両方なんだろうな。